キュビズムの巨匠パブロ・ピカソの絵画を、ヨットでスペイン国外へ密輸しようとしたとして、スペイン人の富豪ハイメ・ボティン氏が訴追を受けている。同氏はスペイン屈指の銀行経営者一族の後継者であり、芸術品のコレクターでもある。

貴重な文化財の密輸の罪

元銀行頭取に対してスペイン検察は、貴重な文化財の密輸の罪で、4年の実刑判決と1億ユーロの罰金刑を求めている。

さらに、1億ユーロの罰金を支払うことができない場合は6ヵ月の実刑が追加される。

国外へ持ち出そうとしたとされるその作品は、ピカソの《若い女性の頭部(1906)》で、ピカソ作品の中では有名な方ではないが、2,600万ユーロの価値があるとされ、ボティン氏は1977年にその作品を入手している。

2015年夏、ボティン一族のサンタンデールグループ所有のヨットにその作品が積載されていたところを、仏領コルシカ島停泊中にフランス税関担当局が押収したという。

当局は、ボティン氏がスイスにその作品を運び、売却しようと企てていたとみている。フランス税関担当者によると、彼らがその絵をボート内で発見した時、すでに梱包されていたという。

芸術品を国内にとどめておきたいスペイン政府側の思惑

今回の事件で問題となったのは、ボティン氏のような富豪が所有する芸術作品に対し、政府がそれを国家財産の一部とみなし、守ろうとする場合の所有者の権利についてである。

「法的には、作品が作られてから100年が経過しており、さらに国家にとって文化的に重要である場合、所有者は海外への持ち出し、および売却の際は許可申請をする必要がある」と、グラナダ大学の国家遺産専門家のホセ・カスティーリョ氏は話す。

《若い女性の頭部》についても、押収される3年前の2012年、ボティン氏はクリスティーズ・イベルカを通じて輸出許可を求めていたが棄却されていた。

同年、スペイン教育文化省ファインアート総局は、この作品を「唯一無二」で、「桁外れに重要」だと認め、輸出不可とした。

そのためボティン氏は許可申請を諦め、コルシカ経由で密輸したのではないかということだ。

しかしボティン氏側の弁護人は、作品が乗っていたヨットはイギリス国旗を掲げており、停泊地がどこであろうと、スペインの法律は有効ではないとした。

また、同氏も彼のアドバイザーも、EU海域にある地中海を渡ることが輸出制限を犯し、それで密輸が成立するとは考えていなかったため、作品が個人の手から離れたことにはならない
ともしている。

ピカソの傑作の行方

今回の事件で話題となったピカソの《若い女性の頭部》は、ピカソが24歳の時に手掛けたものである。

その価値は、この絵画が、彼がスペインのゴソルに滞在していた時に描かれ、のちのキュビズム革命に繋がったと考えられる希少な作品の1つだというところにある。

2015年8月にフランス税関により押収されたこの作品は、その後すぐにスペイン警察に引き取られ、マドリードのソフィア王妃芸術センターに持ち込まれた。

裁判が終わるまで、そこで保管される事になっている。

しかし検察は、ボティン氏への実刑と罰金刑に加え、スペイン歴史遺産法29条を行使し、作品の所有権を国に移譲することを求めている。

その法律によると、「スペイン当局が求める輸出許可がなく、スペイン歴史遺産に分類される移送可能な財産は全て国家の所有、かつ譲渡不可とし、これを無期限のものとする」とある。

作品の所有権が国家のものとされれば、ソフィア王妃芸術センターに置かれる期間もさらに長引く可能性がある。

検察では、ボティン氏とその他関係者3名が、1億ユーロの脱税を図ったとして、密輸とは別の容疑でも訴追する準備があることを明らかにしている。

ピカソの傑作とともに、ボティン氏もその行く末がどうなるか、判決を待つのみである。

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