2015年、史上最高額で売却されたゴーギャンの名作を巡って訴訟が起こっている。

3億ドル(当時、およそ370億円)で取引されたはずの《ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの?)》は、実際は2.1億ドル(およそ247億円)で売却されていたというのだ。

個人での芸術品の取引価格は、特に高額の場合は秘密にされることが多い。しかし、その内容がイギリス最高裁判所で係争中の裁判で明らかにされた。

話題の裁判の経緯は?

原告は、芸術界きってのベテラン・ディーラーであるサイモン・デ・ピューリー氏だ。「芸術界のミック・ジャガー」とも呼ばれ、華やかな人物としても有名なデ・ピューリー氏の裁判には注目度も高い。

デ・ピューリー氏は妻とともに、取引を仲介したことに対して、本来であれば受け取ってしかるべき1000万ドル(現在約11億円)の手数料を求めている。同氏の主張によれば、同作品の売却が決まったタイミングで、デ・ピューリー氏には手数料が支払われるという「紳士協定」があったというが、その支払いがおこなわれていないのだという。

なぜ支払いがおこなわれていない?

問題の作品は元々、デ・ピューリー氏の旧友であるルドルフ・ステシュラン氏の家族財団が所有していた。

デ・ピューリー氏の弁護人であるジョナサン・コーエン氏が裁判所に提出した陳述書によると、《ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの?)》は、2014年9月にイギリス人美術商ガイ・ベネット氏が運営する有限会社に売却された。

ベネット氏は、カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー首長の代理人で、デ・ピューリー氏とは、本作品の取引交渉を目的として2012年に初めて会ったとされる。

デ・ピューリー氏が、古くからの知人であるのステシュラン氏に絵画の売却話を持ちかけた当初、ステシュラン氏は本作品を2.5億ドル以下では手放さないと言い、交渉は一時滞ったようだ。

その後デ・ピューリー氏とベネット氏が何度も交渉を重ねた結果、売却価格は2.1億米ドルとなり、2014年に交渉は成立したとされている。しかし、ステシュラン氏の主張はデ・ピューリー氏と真っ向から対立しており、彼にだまされたと主張しているのだ。

それによればデ・ピューリー氏が、カタール側が2.3億ドルなら喜んで出すと言っていたことを明かしたが、実際にバイヤーは2.1億ドルしか出す気はないことを知っていたというのだ。

ステシュラン氏側のジョン・ワーデル弁護人は、「明らかな受託者側の義務違反で、手数料は全て無効になった」と述べている。このため、デ・ピューリー氏が主張する手数料は支払われず、裁判に至った。

芸術界の「紳士協定」

デ・ピューリー氏側の主張は、ベネット氏には2.3億ドルで打診したが、カタール側の心変わりで断られたという。さらに、正式ではないが1000万ドルの手数料は「芸術界では一般的だ」とも主張している。

しかし、手数料に関する契約書類は一切存在していない。

同氏弁護人のジョナサン・コーエン氏は、「書面での合意がなくても、こういったことは珍しくない。口頭での契約の取り交わしは一般的ではないが、芸術界では『互いの信用のもとの紳士的な作法』として現在も続いている」と、主張している。

また裁判では、ステシュラン家で100年以上所蔵されていたという本作品について、「デ・ピューリー氏がカタール側に売却するよう、せがんだ」とステシュラン氏は主張するが、デ・ピューリー氏は「せがんだ覚えはない」と反論。

裁判は継続中だが、ステシュラン氏の弁護人スコット氏によると、判決が7月末までに下される可能性もあるという。

最高額は減額に

今回の騒動の行方は明らかではないが、少なくとも芸術作品価格の最高額は書きかえられた。

現在の最高取引額は、2016年に売買されたウィレム・デ・クーニングの絵画《インターチェンジ(1955)》の3億ドル(当時およそ336億円)、2番目が、2011年にカタール政府に売却されたセザンヌの絵画《カード遊びをする人々》の2.5億ドル(当時およそ200億円)である。

公売価格での最高額は、2015年にクリスティーズで売却されたパブロ・ピカソの《アルジェの女たち》(バージョン0、1955)で、1.794億ドル(当時約215億円)である。

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